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books reminder 『文藝』2013春号 いとうせいこう特集

  • 2013/02/11(月) 18:19:11

books reminder 『文藝』2013春号 河出書房新社

いとうせいこうさんの特集だ。
twitterで七尾旅人のリコメンデーションを見て遅ればせながら『文藝』ゲット。
1月に発売された春号は既に売り切れ続出でなかなか手に入らずamazon
では高値がついていたが、御嬢に頼んでおいたら早稲田大学の生協で普通
に買ってきてくれた。

「想像ラジオ」の感想をすこし。他人の書評を読む前に。
以下内容に触れるし引用もする。物語の進行を楽しむ種類の小説じゃない
ので読んでも構わないと思うが気になる方は、こちらでさようなら。

さて、16年の沈黙を破る中篇小説という煽り文句だが、もとより「活動家・
いとうせいこう」の文章として読んだ私にとってはさしたるブランクを感じさせ
ない。それは氏のトークでありアジテーションでありラップでありDJであり、
お得意のユーモアと気配りが効いたいつもの司会進行、の姿勢で書かれて
いるからだ。

私は普段、作品に向かう時、作品と作家を分離して鑑賞する。が、しかし、
「想像ラジオ」は無理だ。なぜならこの作品は私にとっては活動家・いとう
せいこうのマニフェストだからだ。
このテクストは小説というよりも、DJアークが「たとえ上手」と自ら宣言する
ように、あるテーマをめぐるたとえ話を交えた声明文だ。
テーマは明快。3.11後のリアリティに僕はどうやってコミットすべきか。

魂魄この世にとどまりて・・・死者の声を想像すること、悼むこと、そうして
生者と死者は持ちつ持たれつ抱きしめあって、一緒に未来をつくる。
死を悼むこと、想像すること、物語ること、作家であること、生きること、は、
同義であり、歴史であり、たくさんのバリエーションがあり、いずれもリアル
であり、そこには常に、ことばがある。3.11以降の世界に作家としてどうや
ってコミット(がっぷり関係)してゆくか、なんて野暮なことはきくな、ブレる
余地なんてねえよ、ことばでコミットするにきまってんだろう、お前ら、黙っ
てるんじゃねえよ。

「僕らは死者と手を携えて前に進んできたんじゃないだろうか? しかし、
いつからこの国は死者を抱きしめていることが出来なくなった。」
「亡くなった人の声に耳を傾けて悲しんで悼んで、同時に少しずつ前に歩く
んじゃないのか。死者と共に」(第四章、僕)

「行動と同時にひそかに心の底の方で、亡くなった人の悔しさや恐ろしさや
心残りやらに耳を傾けようとしないならば、ウチらの行動はうすっぺらいもん
になってしまうんじゃないか」(第二章、ボランティアの木村宙太)

死者のことばを想像すること、死を悼むこと、霊魂を慰めることは、生き残る
者の身勝手な欲望にすぎない。ましてや肉親や恋人を失った当事者ではな
くボランティアが死者への想像を語るなんて、
「死者を侮辱している、甘すぎる」「俺らは生きている人のことを第一に考え
なくちゃいけない」「Sさん、これは俺たちボランティアがどういう場所でも常に
突きつけられている事柄で、甘い想像で相手に接してる限り何度でも、おまえ
に何が分かるんだとつっぱねられるんですよ」(第二章、ボランティアのナオ君)

ナオ君は代弁している。ボランティアを自己満足の偽善者だと見る部外者達
の寂しい生き様を。そしてナオ君へのアンチテーゼとして宙太がいる。無口
なガメさんやSさん、僕のエピソードは、このテーマが3.11に限られたもので
はないことを示す。

「あなたは書くことでわたしの言いたいことを想像してくれる。声が聴こえなく
ても、あなたは意味を聴いているんだよ」(第四章、身近な事故で「君」をなく
した「僕」の想像による「僕」と「君」との会話。)
「わたしに付き合ってくれてありがとう。履歴は消さなくていいんだよね?」
「いいんだよ。僕もこの会話を残すつもりだけど、いい?」
「残して欲しい。わたしとあなたで今日また、新しい世界を作りました」
(第四章、生=「僕」=「君」=死が未来を紡ぐ。)

「作家っていうのは、俺よくわかんないけど、心のなかで聴いた声が文に
なって漏れてくるような人なんじゃないのかと思うんですよ」(第二章、木村
宙太)


まず読め。関心のある者は。
読後、あなたはきっとリデンプション・ソングを聴くだろう。
賛同する者らよ、想像せよ、聴け、語れ。
今日再び、新しい世界をつくろう。

とアジりたくなるような本だから、いとうせいこう氏の狙いは成功しているだろう。
で、夢幻能みたいな亡霊の話ではない。もっとあたり前の話。
死人の声、なんてしょっちゅう聴いて(思い出し)いるでしょ。身近な人から有名
人まで。当たり前のことを3.11を舞台にたとえ話で分かりやすく、ある意味分か
りにくく、ちょっと大げさに描画して魅せる。それがせいこう氏の仕事。

作品だけをとってみれば、軽快なDJアークの設定はおもしろくて、つかみは
オッケーだし、意外(失礼?)に細かい描写で読者をぐいぐいと想像ラジオの
世界に引き込む、引力のある文章ですが。ただし、文芸作品としてはテーマ
に関して説明的で直截すぎるきらいあり、と感じます。


ところで、『談』の最新刊/2012no.95[特集]魂の承継、これから読むのだが、
『想像ラジオ』とシンクロするなと想像している。読んでみて面白かったら感想
を書きます。



以上




この記事に対するコメント

私にとってのリアリティを感触してきた生と死と自然一体のテーマ
は山や哲学的思考のみにあらず、あらゆるところに見え隠れする。
今後も引き続きこの主題の変奏に耳を傾けることになりそうだ。

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