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G・D ニーチェ選集 Eの二七

  • 2012/11/25(日) 16:51:47

G・D ニーチェ選集 Eの二七

※文中の傍点や振り仮名は省略

E 永遠回帰

二七  なぜ永遠回帰は恐怖させるのか

 人間は悪意を秘めている、と知っているせいで、私が拷問具にかけられて
苦しんでいるというわけではない。そうではなく、私はいままでだれもそう叫ん
だことがないほど声高く、こう叫んだのだ。
「ああ、人間における最悪なものといっても、なんと小さいことだろう! ああ、
人間における最善といっても、なんと小さいことだろう!」
 人間に対する大いなる嫌悪―これこそ私の喉の奥深く匍いこみ、私の首を
絞めたものである。そしてさらに、あの占い師が預言した次のような言葉も―
「一切は同じことだ。なすに値するようなことはなに一つない。知はわれわれ
の喉を締めて、窒息させる」。
 はてしもない黄昏が、私の行く前を足を引きずりながらのろのろと歩んでいた。
死ぬほど倦怠しきった悲哀、死に酔いしれた悲哀である。それがあくびをしな
がら、こう語った。
「おまえが飽き飽きしている人間、あの小さな人間は、永遠に立ち帰ってくる
のだ」―私の悲哀は、あくびをしつつこう言うのだった。そしてそれは休息して
眠りこむこともできず、ただひたすら重い足を引きずっていた。
 人間たちの住む大地は、私にとっては空洞の穴に変わってしまった。大地
の胸は窪み、すべて生あるものが私には、人間の腐った残骸、骨くず、蝕まれ
て朽ちた過去のようになってしまったのである。
 私の嘆息は、人間たちのすべての墓の上で足踏みし、もはやそこを離れる
ことができなかった。私の嘆息と問いかけは、絶え間なく呻き声を上げ、私の
喉を絞め、胸を刺した。そして昼となく夜となく嘆いた。
「ああ、人間は永遠に立ち帰ってくる! 小さい人間が永遠に立ち帰ってくる!」
 かつて私は両者とも、つまり最大の人間も最小の人間もその裸身のまま見た
ことがある。両者はあまりにも似かよっていた―最大の人間でさえ、あまりにも
人間的だった。
 最大の人間でさえも、あまりに小さい!―これが人間に対する私の嫌悪で
あった。そして人間たちのうちで最小の者でさえも永遠に回帰すること―これが
生存に対する私の嫌悪であった。
 ああ、嘔気、嘔気、嘔気!―ツァラトゥストラはこう語って、溜息をもらし、戦慄
した。おのれの病気のことを思い出したからである。

(『ツァラトゥストラはこう語った』第三部所収「快癒しつつあるもの」、
ジュヌヴィエーヴ・ビアンキ訳、オービエ)